特別講演T

『緩和ケアは病院から地域へ』

小笠原 一夫(医療法人一歩会緩和ケア診療所・いっぽ 理事長 )

 我が国における「緩和ケア」の普通の理解は以下のようなものである.
・「緩和ケア」はがん患者を対象とするもの
・がん患者はとても「痛い」「苦しい」.それを除くのが「緩和ケア」である
・「緩和ケア」は病院で行われるもの
・「緩和ケア」は専門の技術,知識を持つ医療者にしかできないもの
 この「緩和ケアの常識」を私は訂正したいと考えている.
 「緩和ケア」のWHO定義は「生命を脅かす疾患に直面している患者とその家族に対して・・・身体的,心理社会的,スピリチュアルな問題に対して・・・適切な対処を行い苦しみを和らげQOLを改善するアプローチである」というものである.
 決して「がんとエイズ」だけとは記されていない.
 そもそも岡村昭彦著「ホスピスへの遠い道」を辿ればホスピスが豊かな土地,恵まれた環境で生まれたものでないことが,そして,特別な疾患を対象としたものではないことが分かる.現代ホスピスが「施設=病院型」を基本として広まっていったが,間もなく「病院での最期」自体への疑問,批判があがっていった.それは1990〜2000年ころである.私が問題意識を持ち「在宅ホスピスケア」を始めたのもまさにその時期であり,その点である.そして私とほぼ同時期に全国各地で「在宅ホスピスケア」が開始されたのである.我が国の緩和ケアの歴史潮流として私は「病院緩和ケア中心の流れ」と「在宅ホスピスケア中心の流れ」とを上げたいと思う.国策としては当初前者が推進されていったが,今やその限界ははっきりしてきており時代は大きく後者へと移りつつある.この流れは国際的には極めて遅れたものではある.しかし我が国で今なぜそうなってきたのか?その一番大きな理由は「高齢化」である.高齢化のインパクトは大きく緩和ケアの潮流を変えようとしている.以上を踏まえたうえで
・「緩和ケア」はがんだけを対象にするものでない.
・痛みなどだけでない.
・医療的アプローチだけでない.
・「体と心と暮らし」を支えるものである.
・地域の多職種のチームケアで行われるものであり,その中心は看護師である.
ことを明らかにしたいと思う.


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