一般演題 6
スピリチュアルペインを抱いた患者と家族への看護支援

○清原文1) 2)、北田陽子3)、松井佐知子3)、藤本桂子4)、神田清子5)
1)国立病院機構高崎総合医療センター
2)元群馬大学大学院保健学研究科博士前期課程
3)群馬大学医学部附属病院
4)高崎健康福祉大学保健医療学部看護学科
5)群馬大学大学院保健学研究科


【はじめに】
 がん患者の抱えるスピリチュアルペインとは「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義される。その中でも、自立性を失い「何の役にも立たない、生きている価値がない」と生への無意味を感じることを自律存在のスピリチュアルペインという。療養先に関する問題をきっかけに長男との関係が悪化し、自律存在のスピリチュアルペインを訴えていたA氏と、その長男に対し、両者の考えを代弁し思いを橋渡しする看護支援を行なった結果、両者の関係が改善しスピリチュアルペインの軽減に寄与できたため報告する。
【研究方法】
 A氏と長男への看護支援についての振り返りを行なった事例研究である。文書にて同意を得て、個人が特定できないよう倫理的配慮を行った。
【症例】
 A氏は70歳代男性で、浸潤性膀胱がん多発転移のため化学療法を行っていたが効果がなく、積極的な治療は難しいため療養先を検討していた。キーパーソンである長男は他県に在住しており、独居であるA氏の面倒をひとりでみていた。
【結果一考察】
 A氏は、「息子に迷惑をかけてばかりで、俺は生きている意味がない」と感じていたが、これは唯一の家族である長男との関係が悪化したことからくる自律存在のスピリチュアルペインであると考える。医療者はA氏と長男の関係改善については介入の難しい問題であると考えていたが、両者と個別にコミュニケーションを重ねる中で、お互いを思う気持ちを持っているが、その思いをうまく口にだすことができていない状況であることがわかった。したがって看護師が両者の考えを代弁し思いを橋渡しする看護介入を行った。またA氏を家に連れて帰りたいという長男の希望を叶えるため、多職種で協働し外泊を行なった。その結果、A氏は長男に感謝の思いを伝え、長男も外泊を実現できたことに満足感をもつことができた。関係の修復が困難であると考えられる状況であっても、患者一家族の訴えや行動の裏にある思いを受け止め、関係改善の糸口を探し介入していくことが必要であると考える。また家族に必要とされていると実感できたことが、A氏のスピリチュアルペインの軽減につながったと考える。


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