一般演題 3
食道がん患者の胃痩造設によって得られた家族との大切な時間

○吉田一恵
国立病院機構沼田病院


 社会的に高齢化が進行するなかで、高齢のがん患者が増えている。
 今回、80歳代の手術不能で放射線療法終了後の食道がん患者の胃痩造設に関わる中で、 「食べる」ということの意味や、家族のために役立つという社会的意味を改めて見つめ直すことができた。
 患者は、放射線治療終了後の治療効果判定は、気管へろう孔が確認されCV管理となった。禁食が続き、入院中、嗅声もあるためか、同室者との会話も余り無く、カーテンを閉め臥床していることが多かった。高齢者の胃痩造設については、可否様々な意見があるが、今回、患者は胃痙を造設したことにより、「久しぶりに腹がいっぱい」と満腹感を得ることができ、また、胃痩の管理を自分で行えることで、自己効力感を得ることができた。入院が長期となり、退院の方向となった際、高齢ではあるが患者の持つ力を信じ、在宅での胃痩管理に向けて、チームで関わり指導を行った。当初は娘の不在時に患者が注入を行う計画だったが、外泊時には「ひとりでやったよ」と自己管理が可能となった。胃痩の自己管理が可能になったことで、自宅に帰ることができ、入院当初から気にかけていた妻との生活を送ることもできた。認知症の妻の食事を準備し、妻の食事に合わせて注入を行い、家族と旅行に行くこともできた。カーテンを閉めて無気力になっていた患者が食行動の獲得により、意欲が芽生え、また家族と共に過ごす時間を得たことで生き甲斐が生まれたと思われる。
 退院後の外来受診時には、病棟に挨拶にみえられ、旅行の写真をみせに元気な姿をみせてくれることもあった。
 病気で起居動作が不自由になり、基本的要求が満たされず他人に委ねなければならないということは病気以上に苦痛である。生命を尊重し、最期までその人の可能性を見捨てないという生命観を基盤にして援助をしていかなければいけないことを学ぶことができた。


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